◆主旨

 前回紹介した生態系モデルを下敷きにして、知名度の高そうなモンスターを主観的に選んで、おおむね生態系上のどのあたりに位置づけるのが適当か検討してゆく。
 
 今回はドラゴンを例を挙げて、こやつはファンタジー的生態系のどのあたりに位置する生物なのか、ケースバイケースで、また前回の反省を生かして真面目に参考文献とかも使いつつ、バシバシ考えていこうと思う。
 

◆幻想世界の生物の生態系

 前回のやわらか生態系モデルがおおむね正しいとの仮定の上で話を進める。

 よりわかりやすくなればと、大体の捕食関係について図式化したので一応掲載しておく。若干正確性に難はあるような気はするが、まあ大体こんな風だろうという筆者の認識を共有してくださればそれでよいのである。

 さてドラゴンだが、東洋西洋、時代によってもイメージは結構まちまちで、何をもって「ドラゴン」と称するかは、ちょっと悩ましいところではある。あるけれども、まあファンタジー的な最大公約数で考えるとすれば、『幻想動物事典』あたりを引いてみるのが良いのではなかろうか。ということでパラパラとめくってみる。

 『幻想動物事典』によると、ドラゴンとは、“ヨーロッパの竜たちの総称。巨大な4本足の蜥蜴の姿で蝙蝠のような翼がある。”とある。また、“性格は邪悪で、口から火や煙を吐くものも多い。”そうだ。

 まあ概ね、トカゲを大型化したようなモンスターとみなしてよかろうなのだ。

 考えられる攻撃手段としては、火を吹いたり、爪牙による強力な切り裂きや噛みつき攻撃、あとまあ、羽ばたく場合もあるのだろうか。

 いずれにせよ殺傷力が高いというイメージはあるだろう。

 だがドラゴンはなぜ強いのかというところを考えてみると、結局のところ、それは「体が大きいから」だという一点に尽きる。

 ドラゴンはしょっちゅう火を吐く。その火吹き攻撃は、可燃物の多い森林地帯や農村地帯などでは、確かに厄介だ。装備が炎上すれば消火に追われて、戦闘どころではなくなるだろう。

 だが、火炎のブレス自体は、そこまで破壊的ではないように思う。

 ドラゴンのブレスが破滅的な威力を持つのは、ひとえに体が大きいからだ。仮にネズミぐらいの大きさの生物と、ヒトくらいの大きさの生物と、ゾウくらいの大きさの生物が、それぞれ息を吐くとしたら、その威力はおおむね体格に準ずると思われる。つまり順当に考えると、最も肺活量が大きいであろうゾウの一息が最も強力になるはずだ。そしてこの吐息に火炎が乗った時、ネズミサイズの生物のブレスと、ゾウサイズの生物のブレスとでは、その威力はケタ違いになる。同じように、ネズミの体当たりとゾウの体当たりとでは、威力が断然違う。往々にして人間よりもはるかに巨大な体躯を持つこれがドラゴンの強さだ。

 とどのつまり、サイズの大きいものはシンプルに強いのだ。だからおっきいドラゴンは強い。現実の生態系では、十中八九、爬虫類に分類されるであろう火吹きトカゲがファンタジー世界でほぼ頂点に近い位置に君臨しているのは、単に巨大であるからだ。

 で、本題。この巨大な生物は、いったい普段どんなものを食べて生活しているのか。
 
 もしも巨大な体格のために、巨大な生物を捕食しなければ代謝が追いつかないというのであれば、時に人間も襲うような捕食者になるだろうし、いやいやそうではなくて、そこらへんに生えてる草をいっぱい食べてるブラキオサウルスちっくなやさしい子なんだよという場合もあるかもしれない。まあそこは個人個人のドラゴン観によっていろいろあるだろう。

 しかしまあ、食性を考えるうえで着目すべき部分は一つしかない。

 消化器官だ。

 食物を摂取し、咀嚼する部分の形状は、その生物が消化吸収を行ううえで最も合理的なつくりをしている。したがって、モンスターの食性は、基本的には食物を直接的に摂取する器官(一般的には口)の形状によると言ってよいと思う。(スライムやローパーは例外として処理する)

 ドラゴンに関していえば、頭部はワニ形状であることが多いように思われる。ワニの口は大きく、また獲物をかみ砕きやすいよう鋭い牙を備えている。したがって、このワニに似た口を持つタイプのドラゴンは肉食で、比較的大型の獲物を日常的に捕まえて食ろうておるのだろうなということが容易に推察さるるわけである。

 肉食動物の備えるいわゆる犬歯は獲物を引き裂くのに適した形状をしているが、これがウーパールーパーやイグアナのようなあるんだかないんだかわからない歯の場合は、大きな獲物の肉を引きちぎって食べるのにはあまり適していなさそうである。せいぜい口に入る小さな獲物を噛みしだくくらいが関の山だろう。こういう口になってくるとやはりTレックスというよりブロントサウルス的な温和なドラゴンになってくるのだろう。

 なんてなことを書いているうちに、だんだんドラゴンの原型は恐竜なのではないかという考えが頭をもたげてきた。ドラゴンのルーツについて掘り下げてみるのもなかなか面白そうではあるが、一応、今回の結論を出しておく。

 大抵のモンスターの食性は、食物を摂取する部分の形状と機能によって定まるように思われる。体格が大きくても小さくても、上半身と下半身で種族の異なる合成獣であっても、主な食事の消化吸収を担う器官は、それにふさわしい形状と機能を備えている。とどのつまりモンスターの食性は、口の形によってほぼほぼ決まってくるのではなかろうかと思うのである。

 結局モンスターも顔なのだ。
 

参考文献
草野巧『幻想動物事典』(2005,新紀元社)